Posts tagged: はかなき人生

「七つの大罪」Vol.2 欲望編プログラムノート其の5

【「金」と「愛」を天秤にかける男と、かけられた女について、そしてロマたち 】

M. デ・ファリャ:スペイン舞曲 (オペラ「はかなき人生」より)

オペラ「はかなき人生」は、他の多くのオペラと同じように、惚れた腫れたに一喜一憂する男女の悲恋物語である。

サルーというロマの娘が、スペイン人の青年パコと恋に落ち、愛を約束する。しかし一方で、男には金持ち娘の婚約者がいる。それを知ったサルーは、パコとその婚約者の結婚式場に現れ、「私と愛を誓ったのに裏切るのね?それなら私を殺して」と叫ぶ。パコは逆に怒ってこの女を叩き出せと怒鳴り、あまりのショックにサルーはそのままパコの足元に崩れ落ちて死んでしまう。

image

(ロマ   Photo: Josef Koudelka)

正直に言って、毒にも薬にもならない、ひどい筋書きである。

このオペラは現在では上演の機会をほとんど見ない(この筋書きでは仕方が無いか)が、ファリャはこの作中で1曲、ウルトラC級のメロディーをものにした。

それが、今日演奏される「スペイン舞曲」である。

オペラでは、この曲とともにフラメンコダンサーが踊る演出になっているが、もうこの際、ひどい筋書きなどはどうでも良くなってくるほど、切なく胸苦しく美しい曲だ。

スペイン舞曲(3分10秒あたりから)https://m.youtube.com/watch?v=soICFlLudro

このスペイン舞曲以外、取り立てて語ることもないオペラ「はかなき人生」だが、しかし実はこの作品は現在も無視出来ぬ大きな問題を内包している。

ロマ(ジプシー)問題だ。

スペイン人青年パコは、愛より金を選んだと同時に、ロマの女よりスペイン人を妻として選んだのである。

ロマたち「流浪の民」の歴史は、そのまま迫害の歴史でもある。ロマは現在ヨーロッパで600万人以上、全世界で約1,000万人以上いると推定されているが、習慣・文化・思想の相違からロマに対する差別は激烈で、近いところでは2010年のフランス/サルコジ政権下での、ロマに対する強制送還措置があげられる。8,000人以上のフランス国内のロマがルーマニア・ブルガリアに強制送還され、世界中から非難の声が上がった。

image

(ヴァイオリンのレッスンを受けるロマの子供たち。ブダペスト)

ロマたちの送還された先の状況はどうなのか。以下、ルーマニアでのロマっへの処遇を、wikipediaより引用する。

【現在のルーマニア】
ルーマニアにおけるロマに対しての差別は根深く、結婚、就職、就学、転居などありとあらゆる方面にて行われている。

image

 (ロマ  Photo: Josef  Koudelka)

21世紀に入った現在、ルーマニアでのロマ問題は拡大の一途をたどっている。EU諸国からのロマの強制送還により、ロマ人口が増加しているのである。ルーマニアにおいて、ロマは自己申告に基づく国勢調査では50万人だが、出自を隠している人も含めると150万人に達すると言われる。

ルーマニアの身分証明書には民族記入欄が無いため、ロマであることを隠し社会に同化する人も少なくない。2002年の調査では、ロマの進学率が極度に低いことが明らかになっており、高卒以上は全体の46.8%に対し、ロマは6.3%、全く教育を受けていない無就学者の割合は、ロマだけで34.3%にも上るのに対し、少数民族を含むルーマニア全体では5.6%にとどまっている。

image

(ロマの美しい少年)

これらの問題に対してルーマニア政府は、「国内にロマはいないため、ロマに対する差別問題は存在しない」としてロマの存在自体を否定している。つまり、ルーマニア国内にロマが存在しない以上、ロマに対しての差別は存在しえず、ロマ差別はあくまでもルーマニアでは架空の存在でしかない、というのが政府の見解となっている。

このため、国内におけるロマ問題への対策をルーマニア政府は何一つ行っていない。さらに、国内外からのロマ対策を要求する声に対しても何の反応も示していない。この結果、ルーマニアでのロマ問題は解決のめどは立っておらず、逆にロマ差別自体がルーマニア人ならびに国家ルーマニアとしてのアイデンティティになっていることは否定できなくなっている。(Wikipediaより抜粋)

✳︎✳︎✳︎
記憶が定かでないのが悔やまれるが、以前何かの本で、ロマたちは服を着たまま愛し合うのだと読んだ覚えがある。外敵にいつ襲われても、すぐに逃げられるように。

「はかなき人生」の主人公サルーも、青年と愛を確かめ合う時は、服を着ていたのだろうか。」

直感のまま、モメンタム・モメンタムを激しく貪欲に生ききっていけば、いつか死が全てを浄化してくれるのだろう。人生は儚(はかな)くなど、ない。貪欲の末の透徹なカタルシスを求めて、私はこの曲を弾く。

コンサートパフォーマンスシリーズ「七つの大罪」Vol.2 欲望編インフォ:

http://www.erikomakimura.com/2014/12/七つの大罪vol-2「欲望編」%E3%80%80バレエ&ピアノ/

WordPress Themes